がんになって食べられなくなった苛立ち

病気になった人の気持ちは、その当事者しか分からないため、何をどう言っていいのかが分からず苦労しました。
食いしん坊の父が食道ガンになってしまい、手術をした結果、流動食しか食べられないようになってしまい、入院中も退院してからも同居している母に向かって「お前だけ、うまいものを食って…」というようなイヤミを言うようになってしまい、母が辛い思いをしていました。
何をどう言っても、心がひねくれてしまっていて、何のなぐさめにもならず、どう会話して良いのか、母が苦しんでいました。
趣味などがあれば良かったのかもしれませんが、術後の体力の問題などもあり、元々特別趣味のある人ではなかったので、大好きな飲み食いができないことで苛立っていたのだと思います。

正直、ガンになってしまい好きなものが好きなように食べられなくなってしまったことで心がひねてしまっていたため、周囲の者ではどうしようもありませんでした。
母は父の前で、おいしそうなものを食べないようにする。私達子どもも、おいしそうな食べ物の話をしない。
とにかく患者である父の気持ちを逆なでしない…と気遣うことしかできませんでした。
実際のところ母が、とてもおいしそうなものを毎日食べていた。なんてことはなかったのですが、とにかく好きなものを食べられないいらだちで、特に母にあたるため、刺激しないこと。ただそれだけを考えて過ごしていました。

患者さんの性格にもよるかと思いますが、何か趣味があれば違ったのかな。と思います。
食道がんは手術をすることがほとんどなので、体力との相談が必要ですが、少しでも病気であることを忘れる時間があると、私の父のような苛立ちはなかったのではないでしょうか。
後は本人が、ガンになってしまったために、それまでの生活と変わってしまった。ガンになってしまった。ということを自分で乗り越えるまでは、仕方ないのかもしれません。